だが美紅は自分に向けて放たれている青白い稲妻には目もくれず、右手をまっすぐ前に伸ばして叫ぶ。
「ヒルカン!」
 いや、だからおまえのその技は通じない……だが、次の瞬間俺は自分の目を疑った。美紅の掌からは滝のように途切れなく炎が噴き出していた。あれは火の玉なんてもんじゃない。まるで火炎放射器だ!
 美紅の正面にいた朱雀がまずその炎にあぶられてすっと消えた。焼け焦げた紙の残骸がぽとりと地面に落ちる。美紅はそのままぐるりと体を回転させ残り三体の式神も簡単に焼き払った。
 純のお母さんの体が一瞬びくりと震えた。動揺したようだ。その隙を突いて美紅が前に突進し、彼女の目の前に右手をかざしまた「ヒルカン!」と叫ぶ。相手は全身を覆った布で体の前面をかばう。
 だが、それは美紅のフェイントだった。美紅の右手はさっと上に上がりそのまま素早く地面に向けて振り下ろされる。炎は純のお母さんの頭の真上の何もない空間から突然下に向かって噴き出した。そして相手の全身を包んでいる布に火がついた。
 思わずかなぐり捨てた布の中から現れたのは、間違いなくあの防犯カメラに写っていたあの女性だった。間違いない。純のお母さんだ。ジーンズにTシャツの軽装だが、両手にはごついアーミーナイフを一本ずつ握っている。彼女が青ざめた顔で叫ぶ。
「なぜだ!なぜおまえの力がこんなにも強くなっている?」
 美紅は初めてあの棒を両手で構え、彼女が繰り出してくるナイフの刃先をはじきながら答える。
「あなたはヤマトンチューだから、やっぱり知らなかったのね。この久高島は太古の昔、女神アマミキヨ様が最初に降り立った場所。だから琉球神道最高の聖地」
 一旦両者はそれぞれ後ろに跳び下がって体勢を整える。美紅が続ける。
「そしてこの久高島の中で最も神聖な場所がこのフボー・ウタキ。あたしたち琉球神女にとっては、この島のこの場所こそがウタキの中のウタキ、聖地の中の聖地!だからこのフボー・ウタキの中ではあたしの霊力は何倍にも何十倍にもなる!」