俺は胸に何かが突き刺さったような気がした。だが、美紅は俺とお婆ちゃんの間に体を割り込ませ、棒の先から俺を守るようにして立ちはだかり凛とした声でこう答えた。
「たとえ罪人であろうと何であろうと、『をなり』は『えけり』を守るもの。命を賭けても守るもの。それが琉球の女に生まれた者のつとめであり、さだめ。……昔あたしにそう教えたのはお婆ちゃんだよ」
 するとお婆ちゃんの顔からいかめしい表情がふっと消えた。手に持った棒を美紅に手渡す。
「ガジュマルの霊木から作ったものじゃ。使い方は知っておるはずじゃな?」
 美紅は両手でその棒を受け取りお婆ちゃんに深々と頭を下げた。そのままお婆ちゃんは俺たちの横を通り過ぎる。その時目を合わさずに俺の母ちゃんに向かって皮肉っぽい口調で言う。
「一度こうと決めたら後先を考えん。ああいう所は誰に似たのかのう?」
 母ちゃんは母ちゃんで澄ました顔でこう切り返した。
「さあ?育ててくれた人に、じゃないかしら?」
 母と娘はそのまま皮肉っぽい笑いを浮かべながらすれ違った。やれやれ、俺の毒舌は明らかに母方の遺伝だな。
 それから俺たち三人はうっそうと茂った南国の木の下を抜け、やがてそこだけ丸くぽっかりと開けた場所へ出た。石で出来た小さな灯篭みたいな物がある他は何もない。俺は母ちゃんに訊いた。
「ここがお婆ちゃんの言ってた、ウタキとか言う場所なの?何もないけど」
「琉球神道ではこういう場所が最も神聖なの。沖縄ではあちこちにウタキと呼ばれる場所があるわよ。沖縄本島のセーファ・ウタキが有名だけどね。ここはこの久高島のウタキ。島の人はフボー・ウタキと呼ぶわ」
 なるほど、とりあえず隠れるには都合のいい場所というわけか。だが、多分見つかるのは時間の問題だろう。歩いて二時間で一周できちまうほど小さな島だし、それに相手は超能力者だ。遅かれ早かれここへ踏み込んで来るはずだ。