夜の闇の中、俺は母ちゃんと美紅に連れられて島の道を走った。波音が小さくなっているみたいだから、島の中央部に向かっているらしい。母ちゃんは大型の懐中電灯で先を照らすが、街灯やネオンサインなんて全くないから星と月の明かりぐらいしか見えない文字通りの真っ暗闇だ。東京育ちの俺にはこんな暗い夜は初めての経験だった。
 やがて前方にこんもりとした森が見えてきた。俺たちはその奥に通じるあぜ道みたいな所を走っているようだ。そろそろ森に入ろうかという頃、俺たちの前に突然人影が立ちふさがった。俺は一瞬びくっとしたが、それは俺たちのお婆ちゃんだった。片手に一メートルぐらいの長さの木の棒らしき物を持って、いかめしい表情で俺たちの行く手をさえぎるように立っている。
 俺の母ちゃんがさして驚いた様子もなくお婆ちゃんに言う。
「母さん、気づいてたの?」
「老いぼれたとはいえ、わしもユタのはしくれじゃ。邪悪な物がこの島に入り込んだ気配に気づかんと思ったか?」
 それからお婆ちゃんは手に持った棒の先を美紅の鼻先に突きつけて、背筋がぞっとするような威厳のこもった声と目つきで美紅に言った。
「この島のウタキは、よそ者は一切立ち入り禁止。たとえ島人でも男は一歩たりとも入る事は許されん場所。それを承知の上のことじゃろうな?」
 美紅はひるむ様子もなく深くうなずく。今度はお婆ちゃんの棒の先が俺の顔に向けられた。
「美紀子から事情は聞いておる。たとえその気はなかったにせよ、おまえの兄は人ひとり死に追いやったツミビトじゃろう?美紅、自分が島から追放されるのを承知で守る、それだけの価値がこの兄にあるのか?」