しばらくして俺はこっそり踊りの輪から抜け出し、母ちゃんが腰かけている縁側に戻り自分も隣に腰かけた。もう息が完全にあがっていた。
「あら、もうグロッキー?都会育ちは体力ないわね」
「いや、あの年でみんなすげえ体力だよな。とてもついていけねえ。ところでさ、母さん」
「ん?どうかした?」
「俺……美紅の笑ってる顔って初めて見た気がする」
 母ちゃんはフッとため息をついて手にした缶ビールを縁側に置き、両手で頬を覆って言った。
「確かにねえ。赤ん坊の時に手放してほったらかしで、東京で一緒に暮らす様になったのだって、あんな深刻な役目を負わせるためだったようなもので……ほんと、あたしってあの子の母親失格ね」
「い、いや。けしてそういう意味じゃなくてさ。あいつがあんなに心から楽しそうに笑える場所って、やっぱり沖縄なんだな、そんな風に思えてさ。あいつ生まれた場所は東京なんだろ?文字通りの『生まれ故郷』じゃないわけだけど、やっぱり美紅にとっての『ふるさと』は沖縄、というかこの島なんだろうな」
「あんたもいい事言うようになったじゃない。そうね。確かにここが美紅の故郷なのよね」
「俺もなんとなく沖縄の事、イメージが変わったっていうか。こういう何もない離れ小島の生活、これが本当の沖縄なのかな?」
 みんなの宴は夜遅くまで続き、俺は後片付けが済むやいなや、布団にひっくり返って心地よい疲労感を覚えながらすぐに眠りに落ちた。