口々にそう言ってみんなが踊りの輪に入って来た。小夜子ちゃんが踊りながら頬をふくらませて言う。
「ああ、もう。デリカシーのかけらもないんだから!こんなド田舎の島、いつか絶対出て行ってやるんだからね!」
 俺はあわてて小夜子ちゃんをいさめようとした。
「き、君、そんな事をそんな大声で……」
 だが小夜子ちゃんの隣で踊っているおばあさんはギャハハと大笑いして俺に向かって言う。
「ああ、にいちゃん、気にすることはねえ。こりゃ小夜子の口癖だ。あたしら、みんなとっくの昔に耳にタコが出来ちまってるよ」
 今度は俺の隣で踊っているおじいさんが小夜子ちゃんに言う。
「おお、それならちょうどええでないか、小夜子。おめえ、この美紅ちゃんのニーニを誘惑せえ!」 
 な、何を言い出すんですか?突然。だが別のおばあさんがすかさずこう応じた。
「んで、そのニーニと駆け落ちしろ。そうすりゃ東京へ行けるぞ。どっかの誰かさんみたいによ」
 それを聞いた母ちゃんが縁側で派手な音を立てて口の中のビールを宙に吹き出した。
「ちょっと!そんな昔の話を蒸し返さないで下さいよう!」
 その場の全員からドッと笑いが起こった。小夜子ちゃんも美紅も体をねじって大笑いしている。
 え?笑っている?美紅が?……俺は踊りながら美紅の顔を見た。そう、美紅は笑っていた。こぼれんばかりの、なんの屈託もない、この年頃の女の子に似つかわしい、愛らしい笑みを満面に浮かべて、笑っていた。