妹神(をなりがみ)

「おい!ちょっと待てよ!」
 俺は美紅がびくっと飛び上がるような大声で怒鳴った。
「いくら親でもそりゃ勝手過ぎるんじゃねえか?だったらこの子は当時一歳にもなってねえだろ!ノロだかユタだか知らねえけど、この美紅って子の人生はどうでもよかったのか?」
「それは……あたしだって英二さんだって辛かったわよ。それに、あんたがこの事を知ったらどんなに悩むか……そう思ってあんたには秘密にしておこう……それがお父さんの遺言だったの……」
 俺は頭を抱えてしばらく無言でいた。沖縄ってのは、俺にとっては夏のリゾート地、南国の観光地ってぐらいのイメージしかなかった。そんな独特のシャーマンがどうとかこうとか言う信仰があって、それが人の人生をここまで左右するほどの、そんな土地だったとは夢にも考えたこともなかった。
 数分経った頃、俺はまた口を開いた。
「まあ、昔の事情は分かった。俺が何も知らされてなかった事はまだ許せねえけど……けど、じゃあなんで今その妹が突然戻って来たんだ?」
 母ちゃんが何か言いかけたが、美紅が先に口をはさんだ。
「もうイザイホーが開けない……それが分かってしまったから……」
 またかよ!今度はイザイホー?沖縄の言葉って英語より始末悪いな。母ちゃんが後を引き継いで言う。
「沖縄本島の近くに久高島という小さな島があって、そこで十二年に一度、その琉球神道の大きなお祭りをやるの。それをイザイホーと呼ぶのよ。これは島中の大人の女性が琉球の神様の巫女として正式に認められるための儀式なんだけど……1978年を最後に途絶えてしまったの」