『あっごめんっお客さんだったんだねっあの、えーとこれっどうぞ。りんご。お母さんからの、おすそわけ。じゃ』

『おい、南』
という声が後ろの方で聞こえたけど、私はあわてて、家に戻った。


キレイな女の人だった。
あたしみたいにチビじゃなくて背が高かそうで。
一瞬しか見なかったけど…

誰なんだろう。


仕事の人?

それとも彼女?

もし彼女でも、あたしは何も言えない。

さっきの誰?って聞く事もできない。


だってあたし結婚してるもん…

そう思ったら急に涙がとまらなくなった。


いつのまにか柊二への思いが、こんなに強くなってると自分で今、気付かされた。


誰にも言えない。

つらいよ…


その日から私は柊二を避けるようになった。

何度か柊二から話かけられた。りんごありがとうとか、色々。
でも私は、急いでいるからとか、色々理由つけて、その場を、いそいそと立ち去る。

目も見れなかった。

そんな日が続いたある日。

夕食の時、司が急に切り出した。

『あっ南聞いたか?前田さんのニューヨーク行きの話。』