「おい、早く起きろ」

耳元で大きな声が聞こえ、条件反射でうちは飛び起きた。

ゴツっという音が聞こえたけれど、何の音だろうか?

うちが首を傾げていると、不意に右隣から微かな笑い声が聞こえた。

見ると、そこには沖田さん。笑いを堪えているようだが、堪えきれていない。

「てめぇ・・・」

反対から低く怒っている声が聞こえた。

振り向くと、そこには鋭くも綺麗な顔でうちを睨んでいる土方様が。

よく見れば、顎が赤くなっている。・・・もしかして・・・

「あのー・・・土方様の顎が赤いのは・・・」

「てめぇの頭が当たったからだろうがァッ!」

あ、やっぱり?

ダメじゃね?うち土方様を傷つけてね?

「申し訳ございませぇぇぇぇん」

光の速さで畳に頭をつけて、THE☆DOGEZA

「プッ・・・アハハハハハッ」

沖田さんが横で大爆笑している。

「総司、笑ってやるな。可哀想だろうが」

土方様の慰めじゃ無い慰めがうちを癒して・・・くれるわけなかった。

「そう言えば、てめぇの名を聞いてなかったな。名を言え」

え?ああ、そう言えば・・・聞かれてなかったわ。

うちは恐る恐る頭をあげて、土方様を見た。

黒い瞳がうちを吸いこみ、逸らせなくした。

「うちの名前は、土方兎吏<ヒジカタウリ>です」

答えた途端に、また沖田さんが笑いだした。

土方様は、絶望したような顔になっている。

え、何?うちの名前、そんなにダメなの?

元服とか出来ないよね、うん、そうだよね。

「・・・その名を今後一切名乗るんじゃねぇぞ・・・」

土方様の嫌そうな声が聞こえて、うちは驚いた。

え、自分の名前、名乗っちゃいけないの?

「なんで、名乗るのは駄目なんですか?うちはナナシになれってことですか?」

うちは思いっきり不満そうな顔で言った。

「色々面倒な事になるから、だ・・・今日からお前の名前は平塚聖だ。分かったな?」

鋭く冷たさが混じっている瞳で見られ、うちは何も言えなくなった。

この人は、うちが思っていた土方様とは違うくて、本当の鬼のよう。




うちが愛した人は、本当の鬼だったってわけ?