インサイド

 そんな発言に、どんな手段で続けさせるつもりだったのか、あるいはどんなルートに変更するつもりだったのかを聞いてみたいとも思った。

千帆は今頃になってやっと冷静になり、裕明のリードの巧みさに考えが至る。

それでも今まで避け続けていた数々のテーマを順番に乗り越えて行くことを気持ちのいいことにしてくれたのだから、感謝の気持ちに変化のあるはずもない。

 机の上に置かれた黒いケースの方に興味を引かれた。

かなり年季の入っている様子で、すでに破れ剥がれて、図柄どころか外側の形すらわからなくなったステッカーが、おそらくは何枚も貼られている。物置に眠っている、父親のギターケースみたいだ。

アンティークでカッコイイ、にすれすれのところ。

イメージとしてものを言うなら、裕明に進んで持たせようと思わない類いのもの。

心配をそのまま顔に出し、おそるおそる千帆は訊ねた。

「先ぱいのヴァイオリンなんですか? いつも持ってるの?」