雨じゃなくてがっかりするなんて信じられない。

 千帆は夏を目指す太陽の輝きを、不思議な気持ちで見上げていた。

雨の名残のしずく一滴、存在を許されていない、完全なる光の支配する世界。

 現実の世界で雨が降らなくても、遥くんが弾けば雨に出会える。


 ――なんてっ。

 自分で考えたことが恥ずかしくて走って逃げ出したくなり、千帆は本当にでき得る限りのスピードで走り出した。

廊下を普通に歩いていた他の生徒たちが、怪訝そうに姿を追う。

変り者の一年生も、時期的に出尽くした時節柄、その噂の人物の一人だと思われる可能性高し。

 渡り廊下をはみ出して、西館まで中庭を突っ切ったら、さすがに息が苦しくなり意地もそれ以上は働かず、足は勝手に止まっていた。