アルヴァレス 4

「うんうん。だいぶ上手になってきたかも」

 本日の課題演習も順調に、最後の一曲の最後の回を弾きながら、千帆は自らの演奏に満足気にうなずいた。

声も指も弾み気味だ。ご機嫌最高にヨシといったトコロ。

「あの人、こういうの楽勝なんだよね……」

 そこで弾き方を崩し、まんまと失敗して演奏は切れた。

どうやらちょっと、遥の弾き方を真似てみたらしい。そうはいかないだろう、千帆。

 悪い影響、という結果になるだろうか。正反対のものを持っている男の登場は。

裕明の完璧さの方がましと言えるかもしれない。

越えられないとわかっている山は眺めるだけに止めるものだ。

それはたとえ千帆でも、無意識に選び取っている。