平穏な日々が続いていた。

波風の立たぬ、千帆が弾き続ける毎日。

裕明への想いも日常化し、憧れであったのかと思わせる。

うっとりとその心地好さにまどろむか……、と思い始めた頃だった。


「女の子だと思うでしょお、だってー」

 手を休めずにそう言った千帆の声は笑いを含み、また、あきれているような響きを持っていた。

「ハルカちゃん。ようくん。あれはお母さんのシュミだな。きっと」

くすくすと、笑いは途切れない。

「きれいな曲だったよね。なんだっけ」

 何かがあったとして笑っている以上悪いことではなさそうだが、……千帆、その曲の続きは?


同じフレーズを何度も何度も聞かされた。

本来の曲と少し違うものになっているのは、千帆の耳か、それとも聴かせた相手の弾き方だろうか。


 相手?


 それが、『遥くん』か?