彼と彼女と彼女の事情


「お待たせ、千帆ちゃんっ。ごめんねっ、遅くなって」

 そこではっとして腕を回して時計を覗くと、時間は相当過ぎていた。

待たされていた。確かに遅い。奏はどこの果ての教室までかばんを取りに走ったのだろう?

 往復のほかに事情はありそうもなかった。

ただ単に動作が緩慢だということなのだ。

いいよ、と千帆は言い、歩き始めた。

どれほども進まないうちに、目に見えてペースは落とされてゆく。

そうしなくては、並んで進み続けることができなくなってしまうからだ。

性格直結にてふだんは相当の早足で歩く千帆は、ちょっと眩みつつ考えた。

悪意はなくして、ほんのさらりと。


駅、遠すぎ……。