運命

　新入生・成瀬千帆が指定された教室の扉をためらいもせずに開けてしまうと、ピアノと歌が進行中だった。

板張りの床の中央に、輝き眩しい一台のグランドピアノが向こうを向いて座っている。

　向こう？

　まだ一度も瞬きをしないまま、千帆はそれを不思議に感じていた。

座っているのはピアノではなくて、制服姿の男子――生徒だ。

歌っているのは女性。

スリムなパンツスーツを着ているところを見ると、生徒ではないらしい。

　ピアノの向こう側に立っているので、中央部分が欠落している。

胸、次は足、という姿を、遮る物体のことを瞬時に忘れ去り、それは人間じゃないな、などと考えるのはおかしい。

突然の予想に反したできごとに、どうやら混乱しているらしかった。


「千帆ちゃん？」

　その声はピアノを弾いていた生徒から発せられたもので、まるで良く知っている人間のように千帆の名を口にする。

手は止めないままに、彼は続けた。