「あー、うるさいうるさい。おまえの乱入で室温が一気に三度は上昇したぞ。千帆ちゃん、こいつが筆頭、オレのいとこ」

 いとこ? え。

筆頭、って。


「青山奏です。ちっとも似てないけど、血縁アリなのです」

「あっ、成瀬千帆です。こちらこそいつもお世話になってますっ」

「いいえー、ちっとも。たーちゃんは好きなことしかしない人だから、ぜんぜん気にしないでいいんだよ。ねー」

「それは自分のことだろう、奏さん。これ弾くの?」

「うんうん。弾きたいでしょお、だって」

「聴きたいんだろ? つまり」

 閉じたピアノの蓋をまた開き、裕明はイスに収まった。

大騒ぎの奏から手書きの音符の並んだ譜面を受け取り、ざっと目を通すと譜面台に並べる。

 弾けない。

と言うか、手を出したくない。

え。先ぱい、弾くの?

 弾いてくれるの?


ちっとも状況についていっていないのである。