ピアノレッスン


「課題はいい調子で進んでるね。よくがんばってます」

 五月。

続いた休みの間、千帆は模範生さながらの練習ぶりを見せ、連休明けのレッスンでは、指導担当員から以上の褒め言葉を引き出した。

裕明は予想に違わず褒めて伸ばすタイプなのだけど、これほどはっきりした言葉を聞いたのは初めてのことで、千帆は嬉しくて舞い上がりそうだった。

 感覚だけなら、中空五メートル。

あ。天井にぶつかるか。でもそれくらい嬉しいのー。

 手放しで喜ぶ自分を見る裕明の顔を見ていたら、千帆は沸騰してバクハツしていたかもしれない。

それはそれは満足そうに、微笑んでいたのだから。

幸い、あるいは不幸にも、千帆は自分の感情コントロールに忙しすぎた。


「千帆ちゃんはスナオに伸びてくからやりやすいよ。他はだいたい問題児ぞろいで、筆頭は手に負えないし」