裕明が千帆に聴かせたピアノはギルバートであったことが、はっきりと確認できる。

千帆はギルバートの気配を運び、今ギルは千帆を漂わせていた。

強固な個性だ。双方が。


「アルヴァレス……」

一瞬間、虚を突かれた表情となった。

たちまちのうちに制御可能、ふ、と余裕の笑みを口の端に浮かべる。

「また出会いましたね」

「希望しちゃいなかったけどな」

「僕も彼女からあなたを受け取りましたよ。奔放なお嬢さん。自由が一番、ですか?」

「おまえは相変わらず傲慢が一番か? 煩いほどだ。楽器のくせに」

くっくっと笑う。
楽しげな皮肉を撒き散らし。

「彼女はあなたでもドビュッシーを弾きましたか」

「ドビュッシー?」

「『星の光』。おかしいですね、楽譜などあろうがなかろうがあてずっぽうでも弾くに違いないと思いましたが」

「弾いちゃいない。課題だけだ」

「そうですか?」