「少しこの辺りやってもらおうかと思って。弾いたことあるのある?」

「あー……。ノクターンなら、少し、だけ」

 と言ってしまうのもやめておいた方が良かったくらいに少し。

 それは言わなくても伝わったらしく、横から伸びた手が次のページをめくった。

次……もやっぱり適当なところで投げ出した曲。

 このファイルの選曲は、まずいくらいに不吉だ。

膝の上に展開される楽曲をめぐり、師との間に繰り広げられた闘争は目が回るほど騒がしかった。

めくってめくって次々出てくるスローテンポの美麗な曲。

で、できませんと叫んで逃げ出しちゃいけないだろうか。

すでに爪先をドア方面に向けながら、そんな言葉が頭を回る。

「速い曲が好きだよね。勢いのある方が得意」

「う、……はい」

 まんまと弱点を見抜かれていることに、驚いたなら失礼だろう。