「も・・もしもし!!」

「もしも~し!」

急な電話であわててしまい、

焦ってかみまくってる私とは裏腹にいつもどこか余裕のある先輩はのんびりと返事をした。

「どうかしたんですか?」

私たちはまだ付き合ってなかった。

いや、もうこのときからお互いはお互いを愛しており、“付き合おう”とか“愛してる”とか、言葉にはしなかったけど、求めあっているのは分かっていた。

「風邪引いたって聞いたけど、大丈夫か?」

文面を改めてみると、私の体を心配してくれているやさしい言葉だが、その時のその言葉は、先輩の言い方により、そんなにやさしい言葉ではなかった。

そっけなくて、本当はそんなことどうでもいいような言い方で、

私は“本当に私のことを想っているのだろうか”と

上半身を起こしながら考えていた。

でもそれが、彼の精一杯の愛情表現だったことに気がついたのはもっと取り返しのつかないくらい後だった。

「ちょっと熱が出て、食欲がないだけです。少し休めばすぐ治りますよ。気にかけていた
だいてすいません。ありがとうございます。」

言葉は丁寧だけど、舌足らずのゆっくりとした口調で言ったので、

端からみるとお母さんと話しをしている子供のように甘えていた。

「そうか。それにしてもあれだな、誕生日前に風邪ひくなんて本当にお前らしいな。」

先輩は意地悪そうに笑いながらからかったつもりだろうけど、私は“誕生日”というフレ

ーズに驚きを隠せず絶句していた。誕生日なんてはっきりと伝えたことも無かったし、こ

の年になって誰かに祝ってもらえるなんてちっとも思っていなかったからだ。