綾瀬先生はそう言って席を立ち、ホワイトボードに歩み寄るとマジックペンで大きくこう書いた。
『痴漢専用車両』
 そのホワイトボードを掌でバンと叩きながら綾瀬先生は力説した。
「男性の本能を押さえつけるのではなく、指定した車両の中で自由にやらせるわけです。人間、さあどうぞ、と言われるとかえって引くものですし。仮に起きたとしても、そうと知っている女性だけがその専用車両に乗っていれば、問題になる事もありません」
「い、いや。それはまた、なんとも大胆なご意見ですね……」
 校長はハンカチで額の汗をぬぐい始めた。教頭が片手でこめかみを押さえながら綾瀬先生に訊く。
「しかし、そのような車両が走ったら、線路沿いの住民の方への悪影響という物が問題になるのではありませんか?」
 だが綾瀬先生は意に介する風もなく、引き続き持論を展開する。
「窓を全部マジックミラーにすればいいんです。外からは真っ黒で中が見えないというアレですわね。それに痴漢自体は許されない犯罪行為ですが、一方で痴漢の冤罪の被害に男性が遭うという問題も深刻になっています。その両方を解決できる、一石二鳥の方法です。是非、わが校の総意として鉄道会社に提案するべきと思います」