真琴のほうを見て、他の顔にちらりと視線を流した准乃介は、また目を逸らして、言った。


「俺はなーんにも。心当たりもないし」
「そうですか……でも紅先輩とは一緒にいたんですよね?」
「うん、まぁね」
「んじゃあ犯人は、一緒にいた准先輩はほっといて、紅ちゃんにだけ嫌がらせしたってことにょろ?」
「あえて避けたか、それとも眼中になかった……てことですかね?」


標的が生徒会ならば、被害は准乃介にも及んでいておかしくないだろう。
生徒会室の外でも常に一緒、というわけではないにしろ、行動を共にすることが多い二人の、片方をあえて外す理由がない。

実は自分をいやがらせを受けていることを、准乃介が隠している可能性もなくはない。
だが、紅を巻き込んだトラブルについての手がかりを隠して、問題解決を遅らせるような真似をするとは、考えにくい。

標的はやはり紅一人で、准乃介を傷付けたくない、または傷付ける必要のないなにかしらの理由がある、ということなのか。
それとも、ただの偶然だろうか。


「もし狙いが紅先輩だけで、准乃介先輩への被害をあえて避けてるとしたら……准乃介先輩と仲の良い紅先輩への嫉妬、ですかね」
「でもそうなると、心当たりがむしろ多すぎるんじゃないの?」
「べ、別に仲良くなんか」
「紅先輩はちょっと静かにしててください」
「な、夏生、お前……!」


紅が眉を吊り上げて、夏生を睨み付けた。
当事者である彼女が冷静な判断を下せるのかどうか、で考えれば、当然といえる。

しかし、紅がそれで納得するはずもない。
盛んに交わされる言葉の合間に大人しく座っている彼女の表情は、明らかに不貞腐れていた。