「だから、生徒会室を喫煙所にするなと何度言ったら」
「え? あー……あ、ほら、それ」


話をそらしたかったのかなんなのか、不意に居吹は、BGMになっていたテレビの画面を見た。
薄茶色のレンズ越しの視線が、ある一点に留まる。


「……なんなんだ?」


紅は呆れ半分で、視線の先を追った。
居吹の手元は、ずっとライターを弄っている。

画面の中では、選挙情報と関連してか、現代の日本の政治、なんて曖昧な論題でコメンテーターが数人、言葉を交わしていた。
その中の一人を指し、なんでもないような口調で、居吹が言う。


「ほら、この人。西林寺の親父さんだろ」
「……、え?」


なんでもないことでは、決してないだろうに。


 *


「あ、紅先輩。早いですね」
「あ、居吹。久しぶりー」


一瞬だったのかもしれないし、数十秒、または数分間にも及んでいたのかもしれない。
もしそうだとしたら、急に口を噤んだ紅を、居吹は不思議に思っただろう。


「おぉ、東雲。沖谷も一緒か、珍しいな、お前ら二人なんて」
「そこで会ったんですよ。准乃介先輩、また女の子に呼び出されてたって」
「ちょ、夏生、余計なこと言わないでくれる。……紅?」


普段ならなんとなく含みのある視線を向けてくる彼女がなんの反応も示さないことに気付いて、准乃介は、その肩に手を掛けた。

わざと顔を寄せる。
いつも通りならそこで、頬を赤らめて振り払うか、無言で冷たい視線だけ寄越すはずなのだが。