――かちゃ、

「直姫くんっ!」


扉のほうに背を向けていた直姫が得ることのできた情報は、耳からのものだけだった。

休憩室の扉を開けて、生徒会メンバーではない、『直姫くん』なんて呼び方をする誰かが、自分の名前を呼んだのだということを、理解する。
自分をそう呼ぶ人物は限りなく少数であり、少なくともこの学校では今のところ、大友麗華を除けばただ一人だけである、ということも。

着替えの途中、サイズの合わないジャージを履き、上半身は濡れて肌に張り付くカッターシャツを脱いで下着とタンクトップだけ、という状態のままで、直姫は咄嗟に後ろを振り返った。


「直……姫、くん?」
「……あ、ずま、先輩……」


千佐都は目を丸くしていた。
思考は止まってしまったように見える。

直姫だって一応混乱し、困惑していたが、そんな時に限ってなぜか周りには至って冷静に見えるようで。
とりあえずなにも言わずに、Tシャツを着てジャージの上着を羽織って、千佐都に向き直った。