アコースティックギターと、声。
たったそれだけの音楽が聞こえたのは、直姫がいつものように精一杯急いだ(ただし当然のこととして、廊下は走らなかった)結果、いつものように少しだけ時間に遅れてしまった、ある日の放課後だった。
入学したばかりの頃こそ防音効果は高いらしい生徒会室の扉を開ける度に、中の騒ぎに多少顔を顰めたりしていたものだが、今ではそれも慣れた。

歌っているのはいつも恋宵だ。
時にはビビッドカラーのエレクトリックギターを抱え、時には休憩室のピアノの調律ついでに、時にはタンバリン一つで。
あまりにも楽しそうに歌ううえ、歌唱力は文句なし。
それに、人気歌手の生の歌声をBGMになんてなんだか得な気がして、この時ばかりは紅でさえも注意することはないのだ。
じゃーん、と最後のストロークが完全に掻き消えたとき、拍手を送るのは真琴と聖くらいのものだが、あとの4人だって彼女の歌に多少なりとも癒しのような感覚を見出だしているのは、確かだった。