「あれ? 佐野くん、お休み?」
「仕事で北海道に行ってるんです」
「ふーん……直姫くんは、今日はお弁当じゃないの?」
「えぇ、購買か食堂に行こうと思ってたところです。」
「そっかー……あの、じゃあ!」


不意に、千佐都の声色に明るみが増す。
直姫はなんとなく彼女の言おうとしていることを察したが、苦笑いは夏生直伝の爽やか優等生な微笑みで隠された。


「一緒に食べよ! いい?」
「でも、先輩は……その、ご友人は」
「あぁ、あいつらは放っといていーのよ」


あいつら、というのが、聖の言っていた例の四人のことなのだろう。
ご友人、と言われてはじめに出てくるあたり、本当にいつも一緒にいるようだ。


「ね、どう?」


千佐都のわずかな頬の紅潮には、直姫以外の誰もが気付いても、本人が悟ることはないだろう。
いつか真琴に「何気にヘタレ」と言われたことがある程度には、彼女は鈍感なのだ。


「もちろん、いいですよ」
「やった、じゃあ、行こっ?」


つまり、千佐都がなにをそんなに喜んでいるのか、目を細めて口角を上げる直姫には、知るよしもないのだ。