「全部強がりなのに、強がってるとこ見せないから憧れなんでしょ!? なんにも知らないくせに……っ」
「恋宵っ、もういい」
泣きそうな顔をしていたのは、恋宵だった。
眉は歪んで、目尻を真っ赤にして、悔しげに唇を噛み締めている。
そんな恋宵の肩を引いた紅は、恨みがましく睨み付けてくる里田の視線から、顔ごと逸らす。
そんな光景に、似たような無表情を向ける夏生と直姫。
落ち着かない様子で所在なさげに佇む聖と真琴と、やはりなにを思っているのか分からない准乃介。
奇妙な雰囲気を払拭することもせず、一番傍観に近い彼は、口を開いた。
抑揚のない声を出す。
「逃げですか」
その一言に弾かれたように顔を上げ、里田は表情を歪めた。
夏生の、声質は柔らかいのになぜかなによりも無機質で硬く聞こえる声が、なにを言わんとしているのか。
全てを一瞬で理解したのは、彼女本人だけだった。
逃げ、だったのだ。自分は彼女のように輝かしい人間にはなれないと、端から諦めていた。
最初からずっと言い訳をして逃げっぱなしだったのに、一度も逃げなかった紅を、身勝手な理由で苦しめた。
恋宵の怒りは、里田の逃げと、子供染みた被害妄想に対してだったのだ。
結局、扉を閉めて去って行くまで、彼女は謝罪の言葉もなにも言わなかったし、今にも零れそうにしながらも、ついに涙を流すことはしなかった。


