マネージャー2人が戻ってきたのもあって、今の話を続けようとはしなかった。

「要、見て~」

天音さんは買ってきたものを、要に見せた。

「何それ?」

手に持っていたのは、熊の顔の形をしたもの。

「一応ドーナツみたいだよ。これ可愛いよね?つい買っちゃった」

「そうなんだ」

要の単刀直入な発言は、誰に対してもなのかな。

「可愛くて食べられないよ~。はむっ」

「「食べてんじゃん」」

マーク、泰稔、一志、俺は一斉にツッコんだ。どうやら、ドーナツを見せたところから聞いていたらしい。

「みんな仲良いね~」

「いやいや、言葉と行動が違いますけど?誰でもツッコミたくなると思うよ、うん」

一志は自分なりの解説をした。

「この目なんかどうっスか?」
「振るのかよ」

熊の生き残っている一部に注目した泰稔はノリ始めた。そして、マークがツッコみを始めている。

「この目、クリクリしてて、すっごく可愛くて食べ損ねちゃいそうだよね。はむ」

「ソッコー食い散らかしてるだろ」

智士は既にノックアウト。笑いのツボへと突入。

店内にも関わらず、クマから始まった爆笑タイムは長く続いた。



クマさんフィーバー(仮)が終了した頃。

「さて、今日お呼びしたのは他でもありません」

紙で手を拭いた天音さんは、鞄から何かを取り出そうとしている。

「あんだけ笑わせてまだ続ける気か」

「もうその話はいいだろ」

笑いを欲しがる泰稔の台詞は、一志によって止められた。

「アドレス交換しよう」

天音ひなたはケータイを取り出した。

その楽しそうな言葉を一志はかき消すかのように一言。

「ケータイ持ってません」

「…本当に?」

天音さんの声のトーンが低くなった。

「おぉ」

一志の声のトーンは何故か高くなった。

「そうなんだぁ」

天音さんは残念そうに言った。

「部活の連絡とかなら、俺から一志の家に連絡出来るよ」

俺が一言そう言うと、天音さんは笑いながら答える。

「そう?連絡出来るなら良かった」

でも、どこか本当に笑ってるようには見えなかった。