いつの間にかベッドを離れていた岩田くんが、私を後ろから抱いていた。

「ゆきって、男の人といるのに慣れてないでしょ?」

「…うん」

何で知ってるんだろう。普段から男子と話さないからかな。

「俺が慣れさせてあげるよ」

「へ?」

どうやって?

「ちょ~っと、こっち来て」

私は岩田くんに手を引かれ、言われるがまま。されるがまま。

「座って?」

岩田くんが先に座ったベッドに、私も座った。

「何するの?」

「俺、ゴム持ってんだ~」

岩田くんはニヤニヤ笑っている。

「ベッドの上で2人きり。ゴムもある。何をするのか、わからない?」

「え?え?」

頭の中がパニック。

「ゆき、可愛いなぁ」

そう言って、岩田くんは私の手首を抑えながら押し倒した。

「優しくしてあげるよ」

私は強く目を閉じた。

岩田くんの手が、私の髪に触れる。

「…はい。出来た」

「えっ?」

「起きて」

言われたまま起き上がると、髪に違和感が。

「あれ?」

後ろの髪が縛られていて、ポニーテールになっていた。

「うん。可愛い」

「残念だね、ゆき。さっき紅祐が言ったゴムは、ヘアゴムのことだよ」

いつの間にか、天音さんもいた。

「別のゴムも持ってるかもしれないけど」

「持ってません」

天音さんの視線がこっちに向いた。

「男子慣れしよう大作戦、どうだった?」

「えっ…?」

夏休みに入る何日か前の日の放課後。

私は違うクラスの天音さんと偶然会って、少し長く話していた。

私が男の人が苦手ということを、天音さんは知っていた。

だから、偶然会ったときにそんなことを言ったんだと思う。

今度男慣れしよう大作戦でもしようか、って。

その今度は曖昧だったけど、今日だったみたい。

「そうだったんだぁ…」

「とりあえず、俺にだけは慣れてよ?」

「えっ?」

「おっ?それどういうことかなぁ~?」

「決まってんじゃん」

岩田くんは、また私に抱きついた。

「気楽に保健室利用できるように」

岩田くんは、天音さんにスリッパで叩かれた。