「………」

黙って見てるしか出来ない。

このマネージャーというポジションがもどかしい。

そう思っていると、偶然なのか、要と目が合った。

要は今のコートチェンジで、私から見た手前に来る。

コートには入らず、真っ直ぐ私の方へ来た。

「大丈夫」

要は息を切らして一言そう言うと、コートに入った。



試合は6-4に終わった。

要は負けてしまった。

負けた選手はそのコートで審判をする。

大会ではそうすることが決まっている。

きっと、要の長い試合の間に2人が来なかったのは、そのせい。

要は審判を終わらせると、私のところへ来た。

「要…」

「睡眠不足」

要はそれだけ言うと、私から離れた。

そのとき、高須が私の方へと歩いてくるのが見えた。

「どうした?」

「…何が?」

高須の言葉に、冷たく返す。

「いつもと様子が違う」

「…何もない」

要以外の人には、どうしても冷たくなってしまう。

「…要と何かあったんじゃなくて?」

「…何もないってば」

つい、強く言ってしまった。

「…悪い。踏み込み過ぎた」

高須は立ち去ろうと後ろを向いた。

その時、何故か、本当に何故か、私は高須の服の袖を掴んでいた。

「あっ…」

すぐに手を離した。

高須は振り返った。

「話ならいつでも聞く。今でも、後でも」

「………」

私は黙って俯いた。

「ったく…」

「…えっ?」

高須は呆れたような声を出したかと思うと、私の手を引いて走った。



人気のないところに連れてかれた私は、今の状況がよくわからなかった。

「どうしてここに…?」

「…泣きたいなら泣けよ。ただ、人のいる場所で泣かれたら、オレが泣かしたみたいじゃん」

「………」

実際、あなたが泣かしたんですけど。

しかも、いきなりで…驚いて涙なんてどっか行っちゃった。

「人に泣き顔なんて見られなくないだろ?」

「………」

「落ち着いたらみんなのところに行こう」

「………」

何だか、悪くない気持ちかな。言わないけど。