球を打つのは楽しい。

打った球が思った通りの方向に飛ぶのも楽しい。

打たれた球を打ち返すのも楽しい。

返ってきた球を打ち返すのも楽しい。

普段の練習では、ただそう思ってただけだった。

今日は違う。

何故なら今日は練習ではない。

番手戦。またの名を部内戦。

6番手のオレにもチャンスはある。

リーグ戦式、1人5戦。

数日かけて行われる番手戦は、全員の口先は相変わらずでも、緊張ぐらいはするだろう。

試合の順が発表され、オレはコートに立つ。

この番手戦、部活内ではかなり意味がある。

まず、普段の練習のラリーが決まる。強い奴同士で打つことになるからな。

そして、大会のダブルスにも影響する試合。強い奴同士で組むことになるからな。

最初の相手は野口か。

「ラケット傷付くの嫌なんだよなぁ」

「オレもだよ」

「お前のもう傷あるだろ」

「野口もあるだろ」

何の話かと言うと、試合前にやるサーブ決め。

1人がラケットを回して、そのラケットが倒れるときに上に向く面をもう1人が予想する。当たった人が、サーブ、レシーブ、コートを選べる。

その時のラケットをどっちが回すか検討中。

「こうなったら…審判、どっちのラケットが傷ついてると思う?」

「私の心かな」

「「何があった?」」

コート横にある審判台に座るのは、天音さん。

「仕方ねぇな。俺がやるよ」

「さっすが泰稔、ココが出来てる」

隣のコートでは岩田と佐野が試合。ってもうコートチェンジ?

ゲーム数は1-0。岩田が先取。

「やるか。フィッシュ?」

「それ魚」

「フィッチ?」

「裏の裏で」

「スムースって言えよ」

ボケとツッコミをかわりばんこに軽い会話をし、野口が縦にしたラケットを回す。

「さらに裏をかいたようだ。悪いな」

野口は何故か嫌みに言う。腹立つな。

「スマッシュで」

「サーブだろ」

「いや、レシーブで」

「そっち?」

野口はボケ始めると、わからなくなる。

頭痛からの開始となってしまった。



負けた。