「ふぁ~ぁ~…眠い」

「高須、寝不足か?」

欠伸をした俺に、小柄な男が話しかけてきた。

同じクラスの野口だ。

「いや、先生の話長いから」

今は始業式が終わり、体育館から教室へと向かってる途中。

「あぁ、やっぱ?」

オレの肩ぐらいの位置に、野口の笑った顔が見える。

「俺は途中から聞いてなかった」

「オレもだ」

そういや、「オレ」と、みんなの言う「俺」って、何か発音違う。う~ん…語尾が上がる感じか?

「つーか、始めから聞いてねぇ」

「オイ」

先生方、可哀想に。

「か~ずしっ」

明るい声がして振り返ると、そこには天然パーマの、オレより背が低く、野口より背の高い男がいた。

「おぅ、紅祐(コウスケ)」

「いいなぁ~。1組は」

紅祐はいきなり、残念な雰囲気を纏った。

「どうした?」

いつもは明るい紅祐が暗くなったので、心配する。

「狙ってた女とクラスが離れたとか?」

「いや、違うと言い切れないがそれではない」

「言い切れよ」

野口の茶化しにわざわざ乗るのは紅祐らしいが、そこは友達として言い切って欲しかった。

「…4組が遠い」

「「知らねぇよ」」

オレと野口が思ったことをそのまま声に出したら、偶然声が揃った。

「だって、1組はすぐそこだよ?」

「知らねぇ」

「おぅ、じゃあな」

自分達の教室に着いた野口はさっさと入ろうとした。なんて薄情な奴。

「あれ?」

紅祐は1組の教室の前で立ち止まった。

「どうした?」

オレがそう言うと、野口は教室に2、3歩入ったところで振り返った。

「あの娘、可愛くね?」

紅祐の視線の先は、教室の後ろの窓側にいる、2人の女子。

ポニーテールの子と、ショートの子。

「どっち?」

「俺はショート派だけど、どっちも」

女好きか。

「2人共テニス部のマネージャーだろ?」

その女好きに言うのは間違いか。

「へぇ~…」

簡潔な解説の間、紅祐は2人に視線を釘付け。

「一志…」

まさか…紹介しろ?メアド交換してきて?クラス交換しよう?…それはないだろ。

「テニス部入ろう」