或る一人の悲しい男の物語


 彼は眠れぬ夜をいくつも過ごした。
「いつになったら神官の言葉から開放されるのだ―――?影など感じてなどいない。私はこの国の王なのだ」
 しかし妄想は膨らみ、後ろからついて来る書物とにらめっこをする大臣達、笑顔で酒を飲もうと誘ってくる友人達、バルコニーへと歓声と忠誠を誓う兵や民達、その全ては、実は自分の命を狙っているのではないか―――いつしか彼は人間不信となり、部屋から出なくなってしまった。