ふと目が覚める。

ここは二階にある自室。

そして自分はベッドの上。

暗い部屋の中のはずだが、周りがよく見えるのは、ただ一つの出入口であるドアがわずかに開いていたからだろう。

下で誰かがまだ起きているようだ。話し声が聞こえる。

「パパ……?」

聞き慣れた声が聞こえる。
聞こえる声は二人分。
一人はママ。もう一人は……パパ、だろうか?

父親の事はあまりよく知らなかった。
家にいたことなどないし、母親は話してくれなかった。
それでも母親といるだけで幸せだった。

階段を下りていく。

声がだんだん近くなる。
言い争っているようだ。
二人がいるリビングのドアの前に着く。

ドアはわずかに開いていたので、隙間からリビングの明かりが廊下にもれている。
リビング前の廊下は暗いので二人がこちらに気付くことはない。

ドアの隙間からそっと中の様子を見る。
奥にいるのはママだ。
そしてママに向き合いこちらに背を向けている男性がいる。
パパかもしれない、という期待に胸がふくらむ。

しかし───。

「だから止めろと言ったんだ!」

男が激しい口調で叫ぶ。

「お願いだから考え直して!」

ママが必死に叫ぶ。

「あんな化け物、生まなければよかったんだ!」

「何て事を言うの!」

男の化け物という言葉に胸が張り裂けそうになる。
男も母親もヒステリック気味になって口論している。

「もういい!俺があの化け物を殺してやる!」

言って男はキッチンにあった包丁を掴みドアの前まで行こうとした。

「待って!……あっ!」

「っ!?」

必死に男を止めようとする母親を男が振り払った際に包丁が母親の肩をかすって血が滲みだしてきた。

「あ……」

腕を伝い、流れる血は、暗い廊下からでも視認することができた。