サラ〔偶然……か。……いや、違う。私は、"ここ"に来たかったんだ〕

何もかも失った自分と比べて、ここは何も変わっていなかった。

相変わらず人気のない通り、一度は謎の通り魔が出現するとまで騒がれたストックトンの裏通りは、八年前と何も変わらない状態で、当時腹黒かった謎の通り魔を迎え入れた。

建物と建物の間の薄暗い袋小路は、両側を紅い煉瓦で囲まれ、少しの湿気と淡い闇をまとっていた。

───何も変わってないね。あなたは。

誰かに語りかけるようにわずかに淋しげな笑みをこぼすと、サラは袋小路に入っていった。

すると、先客がいた。

薄暗い袋小路の地面にダンボール箱を一枚敷き、ボロボロのタオルを布団代わりにして寝ていた60代くらいの、いかにも不潔そうなホームレスが、来訪者の気配に気付いて起き上がった。

サラ「おじさん。ここで何してるの?」

何故こんな男がいるのか。そんな疑問はどうでもよかった。

そのホームレスはサラの格好をしげしげと眺め、親近感でも湧いたのか。

ホームレス「おお、見ての通り、ここに住み着いてるのよ。ここいらは中々いい場所がないでなぁ。お嬢ちゃんもホームレスかい?だったら、仲間だな」

───お願いだから。

サラ「どいて」

力無くサラが言葉を漏らす。

私とハリーの思い出の場所を奪わないでほしい。

───お願いだから。

ホームレス「馬鹿言っちゃいけねーよ。俺なんかここを見つけるのに一ヶ月半かかったんだぜ?それを今さら───」

サラ「どいてよ」

泣きそうな声でサラは言う。