彼の───男の目的地であるアパートに着いたのは、午後十時を回った頃だった。
アパートは正面の植え込みからライトアップされ、さながらホテルのような設えだった。
入口は表に一つ。裏に非常用の出入口が一つの計二つ。
ライトアップによって夜でもはっきりと浮かび上がるホワイトの壁は、どことなく上品さを感じさせる。
アパートは五階建てで、部屋は各階に五つありエレベーターはなし。上り下りには入口から入って右側の一番奥にある階段を使う。
男の部屋は三階の真ん中の部屋。

男が鍵を探している間に見た三階からの景色は素晴らしい眺めだった。
アパートの周りの家の明かりも一つ一つ見てとれたし、何より、遠くに見える街のネオンが、まるで空の星々を地上に降ろしたかのようにキラキラと輝いて素敵だった。
男の話だと、アパートの裏には公園もあるらしい。
部屋に入る。
玄関から入ってすぐ右にトイレと洗面台。左に浴室と洗濯場。
少し進んだ右側にキッチン。そしてその奥の丸々一部屋がリビングとなる。部屋に入ってすぐ右側にキチンと整えられたベッド。
部屋の中央に楕円型のマットと四角い小さなテーブル。
部屋の入口正面奥には木造デスクのセットが設置されている。
部屋に二つある窓は、左側に一つと、デスクの正面にあるカーテンが閉まっている窓。

越してきたばかりなため、家具などに少々飾り気がないが、中々上等な一室となっている。

男「ふー、やっと着いた」

全ての部屋の電気を点けながら男が言う。

男「おー、中々広いじゃん」

男が荷物を床に置きながら一息つく。
しかしサラには一息ついている暇などない。まず必ずしなければならないことがあるからだ。

サラ「ここ、私のベッド!」

フ、勝った。
部屋に着いて油断したなミスターお人好し。完全に私の早勝ちだ。
ベッドに飛び乗ってねっころがり、寝るスペースを確保した。
もう、ホント、盗塁して一点奪取した気分だ。

男「おいおい」