Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~

「君ここに住んでるの?」

サラ「そんなとこ」

せめて女の子らしいところを男に見せようと無邪気そうに笑ってみる。

すると意外な一言が返ってきた。

「そっか……じゃ~さ。……道……教えてくれない?」

サラ「え?」

男は気恥ずかしそうに続ける。

「いやさ、俺、最近越してきたばかりでさ。右も左もわからないんだ。あー……、今払ったの情報代……ね?」

心底変な人だが、別に自分をどうこうするといったようなことはなさそうだし、お金のこともあったので、サラは協力することにした。

サラ「いいよ。教えてあげる。どこ?」

「え~と……ここ」

ガイドブックのある一点を指差しながら男が言う。サラも男の目的地がわかるように覗き込む。

「近いかな?」

サラ「ああ、ここね。んー、3㎞くらいかな?」

「そうか。ホントにどうもありがと。じゃね」

サラ「バイバイ」

素っ気ない挨拶とともに手を振る男に合わせて手を振り返す。

男は去っていってやがて見えなくなった。
サラは建物と建物の隙間に戻った。

サラ〔面白い人だったけど、多分もう二度と戻ってくることはないだろうな〕

おかしな出会いに自然とこぼれる笑みを顔いっぱいに浮かべながらそんなことを考えていると。

目の前に缶コーヒーが差し出される。

「はい、あったかいよ」