「え?」

「普通生まれてすぐの新生児は泣くだろ?それがこの子は……」

通常生まれたての新生児は初めて泣くことで母体の中ではできなかった肺呼吸を始める。
その最初の一泣きがなかった場合、その新生児は死亡している可能性も……。         

その時、微かな産声が手術室内に響いた。

「良かった……やりましたね!主任!」

女性医師の一人が胎児を取り出した医師に歓喜の声で話しかける。

「……主任……?」

主任と呼ばれた医師は答えない。代わりにプシッというプルタブを開けたような音がした。

突然、胎児の泣き声が大声になった。
それに応えるかのように胎児を両手に持っていた主任の体が痙攣したようにふるえだす。

次の瞬間、女性医師は信じ難い光景を目の当たりにする。

見れば、主任の顔は血まみれだった。頭から、目から、耳から鼻から口から血が血がちがちがちがチガチガチガチガ……………………。


産声に負けないほどの悲鳴があがる。

赤ん坊が主任の両手から手術台の上に落とされる。

そして女性医師は気付く。自分の顔からも血が流れている。

赤ん坊の声のみが室内中に響き渡る。

周りの医師達も同じような状態だった。
ぱん という音がして主任だった"モノ"が頭から真っ二つに破裂する。

赤ん坊は火がついたように泣く。

一人、また一人と倒れ破裂し絶命していく。

いつしか室内は死体が横たわる血の海と化していた。



室内に、ただ、赤ん坊の泣き声だけが、響いていた。





Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~ プロローグ・終