Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~

サラ「え……?」

耳を疑った。こんな酷い事が他にあるだろうか?
母親を殺されたばかりだというのに、今度は母親との唯一の思い出が生きるこの家が、ほとんど知らない父親の借金だとかで見ず知らずの男達に奪われるのだ。

サラ「そんな……っ、待って、止めてよ!」

帰ろうとした男の一人の足元にしがみつく。

「えぇい!知るかよ、これが俺達の仕事なんだからな」

男は足でサラを振り払う。その反動でサラは尻餅をついた。

サラ「待っ───!」

追い掛けようとしたが、痛みをこらえているうちに男達は行ってしまった。



今度こそ、何もかも失った。

サラは再びリビングに入ってきた。
ふと、食事用のテーブルの上に小さいケーキと母親の得意料理のクリームパスタが置いてあることに気付いた。
そこではたと思い出した。四月五日はサラ・フィーラスの誕生日だった。母親はサプライズで祝うために黙っていたのだ。

何の感情も浮かべずにサラは椅子に座りケーキを食べ始めた。

月の光がソファーの右側の窓から真っ暗なリビングに差し込む。食べているうちに今までの母親との生活が脳裏に甦ってきた。

───ママは、いつも私の傍にいてくれた。

フォークが皿をつく音だけが虚しくリビングに響く。

ママは、自分を叱る時はしっかり叱ったし、私が楽しい時は一緒に笑ってくれた。

……今は。

いじめっ子から何度も守ってくれたこともあった。
たとえ周りの親からどんなに非難されようとも、決して娘への愛は捨てなかった。

母は、強かった。

でももう、唯一頼れる人はいない。

母の最後の手料理は、涙の味がした。

……今は、月の光さえ、サラには痛々しかった。