Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~

あまりの絶望に股から液体が流れてきた。

次いで涙が溢れてきた。

母親の側まで行き、ただ寝ているだけだ。揺すれば起きてくれるという淡い希望を抱きながら、サラはか細い声で母親を呼び始めた。

サラ「ママ……ねぇ……起きてよ……ママ……。
…………ねぇ起きて………………。
~~~~~!!!!
起きてよ~~。やだよぉ~~~~~……一人はやだよぉ~~~~。ねぇ起きて……………………ママ」

母親は動かない。

わかりきっていたことだった。

泣いた。

ただ泣いた。

泣くだけ泣いた。

おそらく一生分泣き続けたと思う。

幼い顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

こんなにも悲しいのに、母親は起きてくれない。

今この時より、サラ・フィーラスの、人生の大半が意味を失った。



その様子を一部始終、遠く離れたビルの屋上から双眼鏡で観察している者がいた。あの少女である。
双眼鏡の下からこぼれる笑みと涙が見える。涙が出るほどその状況がたまらなかったらしい。



母親の死を見るのが嫌で、耐えきれなくて、認めたくなくて、動かない母親の体を覆えるほどの布を被せた。


時刻は夜の八時半。

サラは特等席であるソファーの上でうずくまって泣いていた。
すると、玄関のチャイムが鳴ったので涙を拭いて(それでも泣き腫らした顔は隠せなかった)玄関のドアを開けた。

玄関の外にはコワモテの男が二人。
二人とも確実に十人は殺してそうな顔だった。

「お父さんかお母さんはいるかい?オジョウチャン」

手前にいる男がサラに話しかける。母親は二人の男からは見えない位置へ運んだ。

サラはゆっくりと静かに首を横に振る。

「そっか……ならしょうがねぇや。じゃあ親御さんに伝えといてくれや。お父さんの借金の肩代わりによぉ、この家明日から差し押さえっから」