Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~

電話口から通話を切断したつーつーという音が聞こえる。

自らを抑えきれず、弾けるようにサラは走りだした。

遠くでヘレン先生が呼び止める声が聞こえる。
けれど今は止まっている時間などない。

学校を出て大通りに出る。大通りを一直線に突っ切って行けば大橋だ。

目の前を車が右から左へ、左から右へ行き交う。信号は赤のまま。

───かまうもんか!

たとえ赤でも突っ切って行く。

今のサラは止まれない。止まってはいけない

横断歩道に差し掛かる。
信号はまだ赤。

周りにいる人達が口々に危ない、と叫ぶ。事実、目の前を大きなトラックが通る。

このまま突っ込めば小さな体は無惨に撥ね飛ばされ、他に走っている車によってぐちゃぐちゃに引き裂かれるだろう。

けれどサラには、この眼がある。

───邪魔だ!

その場にいた誰もが、少女は死ぬ。
車に撥ねられて死ぬ。
そう思った時、鉄がひしゃげる音がして、トラックの後に積んであるコンテナに風穴が開き、その開いた穴から撥ねられるはずだった少女が飛び出してきた。

通行人全員が目を疑った。
移動するトラックのコンテナに穴を開け、その穴をくぐり抜けるなどサーカスや映画の中でしかありえないことだ。
あまりのありえなさに、そのマジックステージから一つの影が目的地へと疾走していくことに誰も気付くことはなかった。

サラ「ママァ!!」

勢いよく家の玄関のドアを開ける。



───途端、世界が終わった。



母親がいる。

それはいい。

床に倒れている。

疲れているのだろう。それもいい。

息をしていない。

……死んでいた。

サラ「ママ……」

頭の中が真っ白になる。何も考えられなくなる。

怖かった。

ただ怖かった。

どうしようもなく怖かった。

あまりの恐怖に体中の震えが止まらなかった。