Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~

モリー〔そんな……それじゃ……今……私の……後に……いるのは……〕

冷や汗が額から溢れ出す。
いわれのない恐怖に体がすくむ。
後を振り向きたくない。しかし、そんな事を考える暇すら与えてくれないのか、ふいに少女が一言囁く。

「ママ」

少女の帽子の隙間から、絶対的な死を予告するエメラルドの瞳とともに笑っている口元が覗く。





サラは我慢できなくなって、受話器をヘレンから引ったくって大声で受話器の向こう側にいるモリーに叫んだ。

サラ「ママ!」

電話口からゴトンと何かが倒れるような音と、受話器が床に落ちる音。

サラ「!?ママ!ママ!?」

状況がわからず心配しているヘレンに構わずサラは叫び続ける。

サラ「ママ!ママ!返事して!」

受話器が拾われ、口元に持って行かれるような気配に多少の安堵感を覚え、再び母親を呼ぶ。

サラ「ママ!ママ大丈夫!?」

『はぁ~い。はじめまして。……いえ、"お久しぶり"ね』

代わりに聞こえてきたのは母親ではなく、聞き覚えのない少女の声だった。

サラ「誰!?誰なの!?ママ……ママはどこ!?」

聞き覚えのない少女の声に用はない。今はただ、母親の声が聞きたい。そう一心に願うサラの思いを跡形もなく消し去る一言が、彼女を待っていた。

『ママ?ママねぇ……死んじゃった』

───何を。

何を言っているのだろう。この子は。

───嘘だ。

ママはそこにいる。
ただこの子が受話器をとっているだけで、ママはまだ電話の側にいる。
私と話したがっているはずだ。

だから───嘘だ。

この子は嘘をついている。