Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~

ヘレンの言葉に、あぁ、きっと遅刻したことを責められるんだろうなと覚悟を決め、母親としての恥ずかしさと謝罪の意味も込めてモリーは返事する。

モリー「あー、すみません。この子ったら忘れ物したみたいで今家に取りに帰ってるんですよ」

午前中の休憩タイムを娘に邪魔された揚句、担任にまで咎められそうな状況に、モリーはサラを縛って天井から吊してやろうかと少しだけ考えた。
すると、電話の向こう側から担任の意外そうな声が返ってきた。

ヘレン『えっ?サラちゃん。今そっちにいらっしゃるんですか?』

モリー「?ええ」

ヘレンの驚きではなく疑惑に近い妙な反応に疑問を覚えるモリーだが、ヘレンはモリーがおかしなことを言ったとばかりに笑ったように信じられない言葉を返してきた。

ヘレン『そんなハズないですよ。だってサラちゃん───今、私の隣にいるんですよ?』

意味がよくわからなかった。

だってサラは今自分の後にいる。だが、学校にいるはずの担任はサラは学校にいるという。

そんなはずがない。

何の冗談を言っているのだろうか、この担任は。
同時に二カ所に存在するなんてどんなマジシャンにも、まして8歳の子供にできるはずがない。
おかしいのはヘレンか自分か。
どちらかが精神病院に通わなくてはならないかもしれない。
それともおかしいのは今この状況か。
戸惑うモリーをよそにヘレンは言葉を続ける。

ヘレン『何か嫌な予感がするから、どうしても家に電話するんだって聞かなくって』

事実、サラは学校に来ていた。しかし何かとてつもなく嫌な予感がしたので、ヘレンに無理を言って家にいるはずの母親に電話させたのだ。





モリーは受話器から耳を離していた。
信じられるわけがなかった。学校にいるのが自分の娘なら、今自分の後にいる少女は誰なのか?電話口のヘレンの『もしもし?』という言葉も耳に入らなかった。