「よく来たね」



金色のネクタイピンを光らせた緒川さんが

握手を求めてきた。



「お願いします……」



うつむきながら握手を交わし、
グッと息を呑む。



私はお父さんと約束をした。



仕事は今日の1回だけ。


1回だけ
カメラの前で肌を見せるだけと。



少しの時間、
我慢するだけで良いんだと
自分に言い聞かせ、

ここにやってきたのだ。



緒川さんの車に乗り込み、

新宿の街を走り抜けて行く。



今日は朝から大粒の雨が降り、

傘を突き抜けるように
激しい音を立てた。



私の心も
この雨のように

大粒の涙が流れていた。


怖くて……


怖くて……


不安でいっぱいだった。



これからどんなことをされるのだろう。


涙を堪えるだけで

精いっぱいだった。



激しい雨を
ワイパーが綺麗に流して行く動きを

ただ、黙って見ていると、

車は閑静な住宅街にたどり着いた。



「緊張してる??」



「……はい」



「最初は緊張すると思うけど、すぐに慣れるよ」



緒川さんは
そう言って小さく笑うと

二階建ての大きな家の前に
車を停め、

インターフォンを押さずにドアを開けた。