「では、
お嬢さんに内容をお伝えください。

現場で揉めるのは契約違反になりますので」



「はい」



「では、折り返しお電話します」



緒川さんは
書類を大事そうにカバンに入れると、
立ち上がった。



「じゃ、葵ちゃん、これから宜しくね!!」



優しく微笑む緒川さんに、

私も「……あ、はい」と
何のことか分かず、頭を下げた。



……これから宜しくって
どういうことだろう?



緒川さんを見送ると、
頭を下げているお父さんに

「あの人、誰?」と問いかけた。


お父さんは何も答えず、
タバコに火を点した。


私もそれ以上は問いかけず、
黙って夕食の準備をしていると、
健太が帰ってきた。



「ただいま」と言う健太の頬に
泥が薄らと付いているのが、
目に留まった。



「健太!顔に泥ついている!洗っておいで!!」



「……え??
あ、あぁ。

……さっきまで
サッカーやってたからだ。

だからかな!」



口角を上げて笑っているが、
どことなく寂しげに見えたが、

特に気にも止めるはせず、

肉じゃがに、サラダ、お味噌汁を
テーブルに並べ、

お父さんと健太がテーブルに呼んだ。



黙って何も言わない父。


サッカーをやってきたというわりに、
元気のない健太。


ご飯をよそってそれぞれに渡す。