5月上旬。


深緑の木を見上げ、

木漏れ日に目を細める。



私はいつものように
スーパーの特売で買った野菜を揺らしながら、
家路を急いで帰宅すると、

見慣れない綺麗な革靴が
玄関に揃えられていた。



「……ただいま」と小声で入ると、

見知らぬオジサンが
お父さんと向かい合わせに座り、

数枚の書類をテーブルに広げ、

何やら説明をしていた。



「……こんにちは」



書類に目を通している
お父さんの眉間にはシワが寄り、

険しい表情を浮かべている。



恐る恐る挨拶をすると、

スーツを着たオジサンが

私に気づきニコッと微笑んだ。



「君が葵ちゃんだね。

こんにちは。緒川です、はじめまして」



「……はじめまして」



緒川さんと名乗るオジサンは
お父さんとは別世界の人だと一目でわかった。


高そうな紺色のスーツに、

腕には光を帯びた金色の時計、

そして大きなビジネスバックからは
ノートパソコンが覗かせていた。


今にも壊れそうなTVや
ボロボロの家具とは似つかない、

上品な雰囲気が漂っている。



「葵ちゃん、良いですね!!

宜しくお願いします」



お父さんに向き返り、頭を下げる緒川さん。



腕を組みながら、
黙っていたお父さんは、


ゆっくりと
テーブルの上に置かれた紙に

ペンを走らせた。



……この二人、
何をやっているのだろう。



疑問を抱きながら、
買ってきた野菜を冷蔵庫に押し込んでいた。