…俺は楽器をテーブルにそっと置いて百合子の側へと向かった。 人に聴かせるために演奏したのは、いつ振りだろうか。 こんな日が来るとは思わなかった。 ただ、彼女に聴いてもらいたかった。 俺をもっと深く知ってほしい…、そんな事を考えてバイオリンを手にするなんて。 百合子の前では、飾る必要も隠す必要もない。 ただ、俺という男がありのまま居るだけだ。 「百合子」 彼女の頬を次々と流れ落ちる涙をそっと拭いながら、愛しさを噛み締める。