そこへ悠斗が戻ってきた。 「…あ…」 思わず声が漏れた。 彼が手にしているのは……… バイオリン。 婚約中に一度しか聴いた事はないけれど、あの美しい音色は今でも脳裏に浮かぶ。 彼は私の前まで歩み寄るとニコリと笑いながら静かに言った。 「…百合子に捧げる。 お前だけに…」 今、私の目に光るのは先ほどと同じものだけれど決して悲しいものではない。 悠斗……、ありがとう…。 彼は小さな深呼吸をひとつすると、楽器を構えて弓を引き下ろした。 ――――