「その放浪女ってなによ」 「ニックネームだ」 何時の間に仕込んだのか、 洗面所に並んだ薄ピンクの歯ブラシに 若干気付きながら見ないフリをする。 「あたしちゃんと名前あるよ」 「へえ?どんな」 「キユ」 俺の動きが一瞬だけ止まった。 だがすぐに歯ブラシを持つ手を動かした。 「キユ、ね」 「漢字知りたい?」 「結構」 「あ、そう?」とキユは欠伸をした。