どこかで救急車の音が聞こえる。
それはだんだん近づいてきて、歩いている僕の横を通り過ぎた。
頭ががんがんした。
大学からすぐのアパートを借りているので、家まではあと少し。
ピーポーの音が鳴り止んだ。
少し不安になった。
もしかして救急車は大学で止まったんじゃないか。
知り合いだったら…。
そう思うと不安になって、小走りで大学の方に戻った。
それに、大学の門の前で美佐子と別れたばっかりだ。
美佐子は優しい子だから、心配で大学に戻っているだろう。
大学の門の辺りに人だかりが見えた。
僕もそれに近づいていく。
「おい、祐次!」
そう言って駆け寄ってきたのは松井だった。
薄暗くてよく見えないが、表情が凍って見える。
「ああ、松井。これ何があったんだ?」
「お前、落ち着けよ」
松井は僕の目を見ずに言った。
自分にも言い聞かすように。
「美佐子が、美佐子がな…」
