「太一、今日は一緒に帰れる?」

4限おわりの今。
実験のレポートを終わらせようと奮起している最中に鳴った携帯を確認し、そして携帯をしまうと、彼女の朱音(あかね)が話しかけてきた。

「ごめん、今日はちょっと」

軽く謝ると朱音は ふーんと言って立ち去ってしまった。

自分のレポートを仕上げに行ったんだろう。

付き合って2週間経ったが、俺達の間にはなにもなかったし、なにかしたいとも思わなかった。
まだ2週間だからか、なんて思ってる。


朱音はいつも笑っている。
そして気さくに話せる。
そういうところに惹かれていた。
はずだったのに。なぜか朱音を通して君を探している自分に気がついた。


そんなことない、そんなことない、と思っても、朱音のどこが好きか聞かれたら答えられない自分がいる。

明るいとこも、気さくに話せるとこも、笑顔が可愛いとこも、全部朱音よりも増して君が好きだった。

だから朱音の好きなところは全部、君の好きだったところのほうが増してしまうから、朱音の好きなところを探すのがなんとなく難しい。
つまり君の好きだったところがそのまま朱音に求めていただけ。そして、それは今だに朱音よりも増して君のほうが存在が大きかった。